損益計算書において、税引前当期純利益までは会計上の収益と費用で計算します。
しかし、最後に記載する法人税等は税法上の益金と損金で計算します。
つまり、法人税等は税引前当期純利益に税率を掛けて計算しているわけではありません。
「②法人税等と消費税」で説明した課税所得の算定よりも踏み込んだ話が今回の内容です。
税効果会計の処理
税効果会計とは
法人税等は税法上の利益(課税所得)に税率を掛けて計算します。
<法人税等=課税所得×税率>
会計上の利益(税引前当期純利益)は収益から費用を差し引いて計算します。
税法上の利益(課税所得)は益金から損金を差し引いて計算します。
<税引前当期純利益=収益ー費用>
<課税所得=益金ー損金>
会計上の収益費用と法人税法上の益金損金の範囲はほとんど同じですが、中には分類が異なるものもあります。
したがって、税引前当期純利益と課税所得は必ずしも一致しないです。
① A(株)の当期の収益は20,000円、当期の費用は12,000円である。当期の費用12,000円には減価償却費2,000円を含むが、このうち400円については、法人税法上、損金として認められない。なお法人税等の実効税率は40%とする。
(繰延税金資産)160 (法人税等調整額)160
ここで、損益計算書には、課税所得によって計算した法人税等の金額が計上されます。
したがって、このままでは損益計算書の税引前当期純利益と法人税等が対応しません。
そこで、会計と税法の一時的な差異を調整し、税引前当期純利益と法人税等を対応させる処理をします。
この処理を、税効果会計と言います。
税効果会計の対象となる差異
会計と税法の違いから生じ差異には、一時差異と永久差異があります。
例えば、法定耐用年数が5年の備品(取得原価8,000円、残存価額ゼロ、定額法)について、会計上は耐用年数4年で減価償却をしていたと仮定します。
会計上は備品の状態に合わせて4年で減価償却することが出来ますが、税法上は法定耐用年数で計算した減価償却費を超える金額は損金として計上することが出来ません。
したがって、会計上の減価償却費は2,000円(8,000円÷4年)ですが、税法上の減価償却費として計上できるのは1,600円です。
課税所得の計算上、この差額400円は損金として認められないことになります。
しかし、耐用年数が4年であれ5年であれ、耐用年数まで備品を使用した場合の全体の減価償却費は、会計上も税法上も同じ金額になります。
つまり、この減価償却費の差異は、一旦生じてもいつかは解消されます。
このような一時的に生じる差異を一時差異と言い、一時差異には税効果会計を適用します。
一方、永久に解消されない差異を、永久差異と言います。
主な一時差異と永久差異には次のようなものがあります。
益金不算入や損金不算入などの言葉は、既に学習済みです。
下の表で確認して、忘れていたら戻って復習しましょう。
法人税等の調整
①の例では、会計上の費用と税法上の損金に差異が生じてますが、これは一時差異(減価償却費の償却限度超過額)なので、税効果会計の対象となります。まず、①の例の課税所得は8,400円(20,000円ー11,600円)なので、税法上の法人税等(当期の納付税額)は3,360円(8,400円×40%)となります。
(法人税、住民税および事業税)3,360 (未払法人税等)3,360
しかし、会計上の利益は8,000円(20,000円ー12,000円)なので、会計上の法人税等は3,200円(8,000円×40%)であるべきです。
そこで、損益計算書に記載した「法人税等3,360円」をあるべき法人税等(3,200円)に調整するために、法人税等の金額を減算します。
なお、法人税等の調整は法人税等調整額という勘定科目で処理します。
法人税等調整額の分類はその他です。
(繰延税金資産)160 (法人税等調整額)160
このときの相手科目は、繰延税金資産(資産)もしくは繰延税金負債(負債)で処理します。
繰延税金資産は法人税等の前払いを表しており、繰延税金負債は法人税等の未払いを表しています。
法人税等の金額を減算するときは貸方に法人税等調整額、借方に繰延税金資産を記入します。
法人税等の金額を加算するときは借方に法人税等調整額、貸方に繰延税金負債を記入します。
したがって、今回①の例における損益計算書の表示は次の通りになります。
貸倒引当金の繰入限度超過額
② 次の一連の取引について、税効果会計に関する仕訳をしなさい。なお、法人税等の実効税率は40%とする。
(1) 第1期期末において、貸倒引当金200円を繰り入れたが、そのうち50円については損金不算入となった。
(2) 第2期期末において、貸倒引当金280円を設定したが、そのうち80円については損金不算入となった。なお、期中に売掛金(第1期に発生)が貸倒れ、第1期に設定した貸倒引当金を全額取り崩している。
(1)の仕訳:
(繰延税金資産)20 (法人税等調整額)20
(2)の仕訳:
(繰延税金資産)12 (法人税等調整額)12
貸倒引当金の繰入額のうち、税法上の繰入限度額を超える金額については、損金に算入する事ができません。
貸倒引当金繰入額が損金不算入となる場合、会計上の費用よりも税法上の損金の方が少なくなるため、当期の納付額(税法上の金額)があるべき法人税等(会計上の金額)より多く計算されます。
そこで、損益計算書に記載された法人税等を減算処理します。
ここで理屈を理解しようと、「会計上の費用よりも税法上の損金のほうが少ない→税法上の法人税等が多く計上される→法人税等を減算処理する」と考えても、始めのうちは混乱します。
したがって、税効果会計の仕訳に慣れるまでは、次のように機械的に処理しましょう。
差異が生じたとき(第1期)の税効果会計の仕訳
(a) まず、会計上の仕訳を考えます。
(b) 続いて、会計上の仕訳のうち、損益項目(費用または収益)に注目し、損益項目が計上されている逆側に法人税等調整額を記入します。
(c) 法人税等調整額は、損金不算入額(50円)に実効税率を掛けた金額になります。
法人税等調整額=50円×40%=20円
(d) 最後に、法人税等調整額の逆側に繰延税金資産または繰延税金負債と記入します。
(a):(貸倒引当金繰入)200 (貸倒引当金)200
↑借方が損益項目なので貸方に法人税等調整額↓
(b):( )×× (法人税等調整額)××
(c):( )20 (法人税等調整額)20
(d):(繰延税金負債)20 (法人税等調整額)20
差異が解消したとき(第2期)の税効果会計の仕訳
貸倒引当金を設定した翌期以降にその貸倒引当金を取り崩した場合には、差異が解消します。
したがって、このときは差異が発生した時と逆の仕訳をします。
なお、法人税等の調整は期末に行うため、第1木に発生した差異の解消と、第2期に発生した差異の処理は同時に行います。
法人税等調整額:
・第2期に発生した分:80円×40%=32円
(繰延税金資産)32 (法人税等調整額)32
・第1期に発生した差異の解消分:20円
(法人税等調整額)20 (繰延税金資産)20
・当期に計上する分:32円ー20円=12円
(繰延税金資産)12 (法人税等調整額)12
減価償却費の償却限度超過額
③ 次の一連の取引について、税効果会計に関する仕訳をしなさい。なお、備品の法定耐用年数は5年、法人税等の実効税率は40%とする。
(1) 第1期期末において、備品8,000円について定額法(耐用年数4年、残存価額はゼロ)により減価償却を行った。
(2) 第2期期末において、備品8,000円について定額法(耐用年数4年、残存価額はゼロ)により減価償却を行った。
(1)の仕訳:
(繰延税金資産)160 (法人税等調整額)160
(2)の仕訳:
(繰延税金資産)160 (法人税等調整額)160
減価償却費について、税法上の減価償却費限度額を超える金額については、損金に算入することが出来ません。
今回の③の例では、会計上の減価償却費は2,000円(8,000円÷4年)ですが、税法上の減価償却費は1,600円(8,000円÷5年)です。
したがって、限度額を超過する400円分について法人税等の調整を行います。
第1期の仕訳
(a) まず、会計上の仕訳を考えます。
(b) 続いて、会計上の仕訳のうち、損益項目(費用または収益)に注目し、損益項目が計上されている逆側に法人税等調整額を記入します。
(c) 法人税等調整額は、損金不算入額(400円)に実効税率を掛けた金額になります。
法人税等調整額=400円×40%=160円
(d) 最後に、法人税等調整額の逆側に繰延税金資産または繰延税金負債と記入します。
(a):(減価償却費)2,000 (減価償却費累計額)2,000
↑借方が損益項目なので貸方に法人税等調整額↓
(b):( )×× (法人税等調整額)××
(c):( )160 (法人税等調整額)160
(d):(繰延税金負債)160 (法人税等調整額)160
第2期の仕訳
備品を売却したり、除却したりした場合には、差異が解消します。
したがって、このときは差異が発生した時と逆の仕訳をします。
なお、法人税等の調整は期末に行うため、第1木に発生した差異の解消と、第2期に発生した差異の処理は同時に行います。
今回の③の例では、差異は解消されていません。
したがって、税効果会計の仕訳は次のとおりです。
法人税等調整額:
・第2期に発生した分:400円×40%=160円
(繰延税金資産)160 (法人税等調整額)160
・第1期に発生した差異の解消分:0円
仕訳なし
・当期に計上する分:160円ー0円=160円
(繰延税金資産)160 (法人税等調整額)160
その他有価証券評価差額金
④ A(株)では、当期の決算においてその他有価証券(取得原価2,000円)を時価1,800円に評価替えした。全部資産直入法によって処理している場合の仕訳をしなさい。なお、法人税等の実効税率は40%とする。
(その他有価証券評価差額金)200 (そ の 他 有 価 証 券)200
(繰 延 税 金 資 産)80 (その他有価証券評価差額金)80
今回の④の例では、その他有価証券の時価が取得原価よりも低いので、評価差損が計上されます。
そのため、会計上の仕訳の借方にはその他有価証券評価差額金200円が計上されます。
このように、会計上はその他有価証券について評価替えをしますが、税法上はその他有価証券の評価替えは認められません。
そこで、税効果会計を適用し、法人税等を調整する必要があります。
しかし、全部資産直入法により処理には損益項目が出てきません。
このような場合には、「法人税等調整額」の代わりに、「その他有価証券評価差額金」で調整します。
税効果会計による評価差額の調整額
(a) まず、会計上の仕訳を考えます。
(b) 続いて、会計上の仕訳のうち、その他有価証券評価差額金に注目し、これが計上されている逆側もその他有価証券評価差額金を記入します。
(c) 調整額は、評価差額(200円)に実効税率を掛けた金額になります。
調整額=200円×40%=80円
(d) 最後に、その他有価証券評価差額金の逆側に繰延税金資産または繰延税金負債と記入します。
(a):(その他有価証券評価差額金)200 (その他有価証券)200
↑借方がその他有価証券評価差額金なので貸方にも記入↓
(b):( )×× (その他有価証券評価差額金)××
(c):( )80 (その他有価証券評価差額金)80
(d):(繰延税金負債)80 (その他有価証券評価差額金)80
評価益が生じている場合は次のとおりです。
⑤ A(株)では、当期の決算においてその他有価証券(取得原価2,000円)を時価2,400円に評価替えした。全部資産直入法によって処理している場合の仕訳をしなさい。なお、法人税等の実効税率は40%とする。
( そ の 他 有 価 証 券 )400 (その他有価証券評価差額金)400
(その他有価証券評価差額金)160 (繰 延 税 金 負 債)160
翌期首の仕訳
その他有価証券の評価替えをした場合、翌期首に評価差額の再振替仕訳を行います。
これと同時に、税効果会計の仕訳も逆仕訳をして振り戻します。
④の例での、翌期首の仕訳は次のようになります。
( そ の 他 有 価 証 券 )200 (その他有価証券評価差額金)200
(その他有価証券評価差額金)80 (繰 延 税 金 資 産)80
今回新たに出てきた勘定科目
・資産
繰延税金資産
・負債
繰延税金負債
・純資産
ー
・費用
ー
・収益
ー
・その他
法人税等調整額